易しい拷問
「やれるようになった方がいいに決まっている」
たったそれだけの決めつけでイチトはスグリの部屋に来た。
小麦粉、ベーキングパウダー、卵、砂糖。
オーブンはわざわざレンタルで借りてきて。
しかしスグリは作業の途中で座り込む。
「ごめんやっぱり無理」
「無理じゃない」
ちゃかちゃかと、小気味好く材料を混ぜる音。
ケーキを焼かないといけない。
あの日みんなが持ってきてくれたケーキを。
スパルタすぎる、とスグリは呟いたがイチトは返事をしなかった。
スグリの愚痴は聞こえていないのかもしれない。
ケーキを焼かないと。
あの日を乗り越えないといけない。
でも手順が魔神の封印の儀式とまったく同じで、だからスグリは、できないのだ。
了